まちで見られる植物の受粉:花と訪れる生き物の観察
まちで見られる植物の受粉:花と訪れる生き物の観察
私たちはまちを歩いていると、様々な場所に花が咲いているのを目にします。公園の花壇、街路樹、庭先、あるいは道端の小さな草花。これらの花が、やがて実を結び、種子を作るためには、「受粉」という大切な過程を経る必要があります。受粉とは、花のめしべに、同じ種類のおしべから作られた花粉がつくことです。この受粉によって、植物は次の世代を残すことができるのです。
都市環境においても、植物たちは様々な方法で受粉を行っています。今回は、まちで見られる植物の受粉の仕組みと、それに深く関わる生き物たちの観察についてご紹介いたします。
受粉の仕組み:風に運ばれるか、生き物に運ばれるか
植物の受粉方法には、大きく分けて二つのタイプがあります。一つは「風媒花(ふうばいか)」、もう一つは「虫媒花(ちゅうばいか)」など、生き物が媒介するタイプです。
風媒花
風媒花は、風の力を使って花粉を運びます。スギやヒノキ、イネ、ムギなどが代表的です。これらの植物の花は、花粉を大量に空中に放出します。そのため、花はあまり目立たない色や形をしていることが多く、蜜や香りもほとんどありません。都市部では、春先のスギやヒノキの花粉が飛散することで知られています。イネ科の雑草なども風で受粉しますので、まちの空き地や公園の片隅でも観察することができます。
虫媒花など生き物が媒介する花
多くの植物は、動物の力を借りて受粉を行います。最も一般的なのが、昆虫が花粉を運ぶ「虫媒花」です。サクラ、アサガオ、バラ、タンポポなど、私たちの身の回りにある美しい花や香りの良い花の多くは虫媒花です。虫媒花は、昆虫を引き寄せるために、鮮やかな花びらの色、甘い蜜、独特の香りなどを備えています。花粉も、虫の体に付着しやすいように、表面に突起があったり、粘着性があったりすることが多いです。
虫以外の生き物が受粉を媒介することもあります。鳥(鳥媒花)、コウモリ(コウモリ媒花)などがありますが、日本の都市部で比較的観察しやすいのは、メジロなどがツバキやサザンカの蜜を吸う際に花粉を運ぶ鳥媒花かもしれません。
都市の受粉媒介者たちを観察する
まちの虫媒花を訪れる生き物たちを観察してみましょう。どんな花に、どんな生き物が来ているかを見るのは興味深い発見につながります。
- ハナアブの仲間: 丸っこい体でホバリングが得意なものが多いです。様々な花で蜜や花粉を集める姿が見られます。スズメバチやハチに似た模様を持つ種類もいますが、刺すことはありません。
- ミツバチやマルハナバチ: 花から花へと忙しく飛び回る姿がよく見られます。特にマルハナバチは体が大きく、複雑な形の花にもぐりこんで受粉を助けます。公園の花壇や街路樹の花など、身近な場所で観察できます。
- チョウやガの仲間: 細長い口(口吻)を伸ばして花の蜜を吸います。チョウは昼間、ガは夜間に活動するものが多いです。アゲハチョウが大きな花で蜜を吸う様子や、夕暮れ時にガが白い花に集まる様子などが見られます。
- カミキリムシやコガネムシの仲間: 花の蜜だけでなく、花粉や花びらを食べる際に花粉を体に付けて運びます。特定の種類の花に集まることがあります。
これらの生き物が、どのように花に近づき、花のどの部分に触れているかを観察することで、受粉の仕組みをより深く理解することができます。
都市環境における受粉の課題と植物の適応
都市環境は、植物や受粉媒介者にとって必ずしも簡単な場所ではありません。緑地が分断されていたり、特定の種類の植物や昆虫が少なかったり、あるいは農薬や大気汚染、夜間の街灯などが影響を与えたりすることが考えられます。
しかし、都市の植物たちは、そのような環境の中でも子孫を残すための様々な戦略を持っています。 * 自家受粉: 自分の花の花粉で受粉する植物(例:アサガオ)。他の花からの花粉に頼らず子孫を残せます。 * 単為結果: 受粉をしなくても果実ができる植物(例:バナナ、タネなしブドウ)。種子はできませんが、果実を作ることができます。 * 特定の受粉媒介者への特化: 限られた種類の昆虫だけが受粉できるような、特殊な形の花を持つ植物もいます。
まちで見られる植物が、どのような受粉戦略をとっているのか調べてみるのも面白いでしょう。
受粉を観察するためのヒント
親子で受粉の観察を楽しむためのいくつかのヒントをご紹介します。
- 観察する花を選ぶ: 公園や庭など、身近な場所で咲いている花に注目してみましょう。特に、虫がたくさん来ている花は観察に適しています。花の形や色、香りもチェックしてみてください。
- 静かに待つ: 花の近くでしばらく静かに待ちましょう。焦らず、じっと観察することが大切です。
- 訪れる生き物を観察する: どんな種類の生き物が花に来ているか、体のどこに花粉が付いているように見えるか、どのように蜜を吸ったり花粉を集めたりしているかをよく観察します。ルーペがあると、小さな虫や花粉の様子がよく見えます。
- 時間を変えて観察する: 訪れる生き物は時間帯によって変わることがあります。朝、昼、夕方など、時間を変えて観察してみるのも良いでしょう。
- 観察記録をつける: 観察したことを絵や写真で記録してみましょう。
- 観察した日付と場所
- 花の形、色、名前(分かれば)
- 訪れた生き物の種類(分かれば)、数
- 生き物が花で何をしていたか(蜜を吸っていた、花粉を集めていたなど)
- 気づいたこと、思ったこと 子供と一緒に絵を描いたり、写真を撮ったりしながら記録をまとめるのは楽しい活動になります。
- 安全に観察する: ハチなど、刺す可能性のある生き物を観察する際は、刺激しないように静かに距離をとって観察してください。植物の中にはかぶれるものもありますので、むやみに触らないように注意しましょう。
まとめ
まちに咲く花一つ一つに、子孫を残すための大切な営みがあります。風や、小さな昆虫たちが、その営みを支えています。受粉という視点から植物や生き物を観察することで、普段見過ごしている都市の自然のつながりや、生き物たちの巧みな戦略に気づくことができるでしょう。
ぜひ、身近な花に注目し、受粉をめぐる都市の自然のドラマを発見してみてください。そして、発見したことを「まちの自然発見ひろば」で他の皆さんと共有していただければ幸いです。