まちの自然発見ひろば

まちの野鳥の営み:巣作りから旅立ちまで

Tags: 野鳥, 巣作り, 子育て, 繁殖, 観察

都市の身近な場所で見られる野鳥の繁殖行動

春から夏にかけての季節は、多くの野鳥にとって大切な繁殖の時期にあたります。私たちの暮らす都市の中でも、公園の樹木、街路樹、建物の隙間、庭先など、様々な場所で野鳥たちが子孫を残すための営みを行っています。この時期に注意深く観察することで、普段は見られない野鳥たちの興味深い行動や、命を育む神秘的な過程を知ることができます。

この記事では、都市に暮らす身近な野鳥がどのように巣を作り、どのように子育てをして、ヒナが巣立っていくのか、その一連の流れと観察のポイントについてご紹介します。

巣作り(営巣)の始まり:場所選びと材料集め

繁殖期の最初の大きな仕事は巣作りです。野鳥の種類によって巣を作る場所や巣の形、使う材料は様々です。

例えば、スズメやツバメは建物の軒下や壁の隙間など、人工物を利用することがよくあります。ハシブトガラスやハシボソガラスは、公園の大きな樹木や電柱の上など、見晴らしの良い高い場所に頑丈な巣を作ります。シジュウカラやヤマガラは、木の洞や人工の巣箱を利用することもあります。

巣作りに使われる材料も多様です。小枝、枯れ草、コケ、泥などが基本的な材料ですが、都市の野鳥は人間の落としたビニールひも、洗濯物の毛、布切れなども巧みに利用することがあります。親鳥が何度も材料を運んでは形を整えていく様子は、根気強く観察する価値があります。

観察のポイント: * どのような場所に巣を作っているか観察してみましょう。種類によって好む場所が違うことがわかります。 * 親鳥がどんな材料を運んでいるか見てみましょう。自然物だけでなく、意外な人工物を使っていることもあります。 * 巣が少しずつ形作られていく過程を定点観察してみるのも面白いでしょう。

抱卵:新しい命を温める時間

巣が完成すると、メスが卵を産み、抱卵(ほうらん)が始まります。多くの場合、メスが中心となって卵を温めますが、オスが交代することもあります。卵を温める期間は種類によって異なりますが、およそ10日から2週間程度です。

抱卵中の親鳥は、じっと巣の中で卵を温め続けます。餌を探しに出かけるとき以外は、ほとんど巣から離れません。この時期は親鳥にとって非常にデリケートな時期です。観察する際は、遠くからそっと見守ることが大切です。

観察のポイント: * 親鳥が巣の中でじっとしている様子が見られるかもしれません。 * オスとメスが交代で抱卵している様子が見られる種類もいます。 * 観察には双眼鏡を使うと、野鳥に負担をかけずに様子を知ることができます。

ヒナの誕生と子育て:給餌と成長

卵からヒナが孵ると、いよいよ子育てが始まります。孵ったばかりのヒナは、目も開いておらず、羽も生えていません。親鳥はヒナに餌を与えるために、頻繁に巣と餌場を往復します。

親鳥が運んでくる餌は、主に昆虫やクモなどです。都市部でも、公園の植え込みや草むら、樹木などには様々な昆虫が生息しており、野鳥たちの食料源となっています。親鳥がヒナの口元に餌を運ぶ様子は、生命の営みを感じさせる光景です。

ヒナは驚くほどの速さで成長します。日に日に体が大きくなり、羽が生え揃ってきます。親鳥は餌やりの他にも、ヒナを寒さや暑さから守ったり、巣の中をきれいに保ったりと、献身的に世話をします。

観察のポイント: * 親鳥が巣に餌を運んでくる頻度や、運んでいる餌の種類を観察してみましょう。 * 巣の中のヒナの姿が見える場合は、ヒナの成長の速さを観察してみるのも面白いです。 * 親鳥が巣の掃除をしている様子が見られることもあります。

巣立ちとその後:新しい世界への第一歩

ヒナが十分に成長すると、巣立つ(すだつ)時期を迎えます。種類によって異なりますが、ヒナが孵ってから巣立つまでの期間は、概ね2週間から3週間程度です。巣立ち直後のヒナはまだ飛ぶのが苦手で、親鳥の近くにいて餌をもらったり、危険を避けたりしながら、少しずつ飛ぶ練習をしたり、自分で餌を探すことを学んだりします。

この巣立ち後の時期も、親鳥はヒナの世話を続けます。公園の地面や木の下などで、まだうまく飛べない幼鳥を見かけることがあるかもしれません。これは巣から落ちたのではなく、多くの場合、巣立ったばかりのヒナです。

観察のポイント: * 巣の周りで親鳥がヒナに餌を与えている様子が見られるかもしれません。 * 巣立ち直後のヒナは、親鳥と比べると羽の色が地味であったり、尾羽が短かったりします。姿の違いを見分けてみましょう。 * 巣立ったヒナを見つけても、心配してむやみに近づいたり、拾い上げたりしないでください。近くに親鳥がいる可能性が高く、人間が干渉すると親鳥が警戒してしまい、ヒナが孤立してしまうことがあります。遠くからそっと見守ることが、ヒナのために最も良い行動です。

観察する上での大切な注意点

野鳥の繁殖期を観察することは、命の営みを知る貴重な機会ですが、野鳥にストレスを与えたり、危険にさらしたりしないよう、十分な配慮が必要です。

これらの点に注意して、野鳥たちの営みを温かく見守ってください。

まとめ

都市に暮らす身近な野鳥たちは、私たちのすぐそばでたくましく命をつないでいます。春から夏にかけての繁殖期は、巣作り、抱卵、子育て、そして巣立ちという、鳥たちの生きる営みのハイライトを観察できる絶好の機会です。

今回ご紹介した観察のポイントや注意点を参考に、ぜひお近くの公園や緑地、あるいはご自宅の周りで、野鳥たちのドラマを探してみてください。きっと新しい発見があるはずです。そして、その発見を「まちの自然発見ひろば」で他の皆さんと共有していただければ嬉しく思います。