都市で見つけるつる植物:多様な形と観察の楽しみ方
都市の風景に溶け込む、つる植物の世界
私たちの暮らす都市の風景には、コンクリートの壁や建物の隙間、公園のフェンスや街路樹に絡みつくように伸びる植物をよく見かけます。これらは「つる植物」と呼ばれる植物たちです。その存在は当たり前すぎて見過ごされがちですが、改めて注目してみると、多様な種類があり、それぞれが独自の戦略で都市環境に適応している様子が見て取れます。
つる植物は、自らを支える茎が十分な強度を持たない代わりに、他のものに巻きついたり張り付いたりして高く伸びるという生存戦略を選びました。これは、限られた光を効率よく得るための巧妙な方法の一つです。都市部のように地面の限られた場所からでも、構造物を利用して上へと広がることで、光合成に必要な光を確保しています。
都市で見られる代表的なつる植物
都市環境で見られるつる植物は多岐にわたりますが、身近な場所で観察しやすい代表的な種類をいくつかご紹介します。
- ヘクソカズラ(屁糞葛): 道端や空き地、フェンスによく絡みついています。夏から秋にかけて小さな可愛らしい花を咲かせ、晩秋には茶色い小さな実をつけます。名前の由来は葉や茎に触れると独特の臭いがすることですが、花は可憐です。茎全体が他のものに巻きつくタイプです。
- カラスノエンドウ(烏の豌豆): 春先の草地や畑の隅などでよく見られます。葉の先に巻きひげがあり、これで他の草などに絡みつきます。紫色の小さな花を咲かせ、熟すと黒くなる豆果をつけます。
- クズ(葛): 河川敷や土手、空き地などで非常に旺盛に広がります。大きな葉を持ち、夏には芳香のある紫色の花を咲かせます。茎全体が巻きつくタイプで、他の植物を覆い尽くすほどの生育力を持つことがあります。
- ヘデラ(アイビー): 壁面緑化や園芸種として広く利用されており、都市部で非常によく見かけます。茎から「気根(きこん)」という根を出し、これで壁や樹木に張り付いて登ります。冬でも葉が落ちない常緑性です。
- テイカカズラ(定家葛): 公園や神社の石垣、樹木などに張り付いて伸びていることがあります。ヘデラと同様に気根で張り付くタイプですが、こちらは夏に白いスクリュー状の香りの良い花を咲かせます。
- フジ(藤): 公園や庭園に植えられていることが多いですが、野生化したものも見られます。太い茎が他の樹木に巻きついて大きく成長します。春には見事な花を咲かせます。
この他にも、アサガオやゴーヤなど、園芸植物が逸出して野生化したものも都市でつるを伸ばしていることがあります。
つるの仕組みに見る多様な形
つる植物が他のものに絡みつく方法は、種類によって様々です。この「つるの形」を観察することも、つる植物観察の大きな楽しみの一つです。
- 巻きつき型: 茎の先端部分が、触れたものに巻きつきながら伸びていくタイプです。アサガオやヘクソカズラ、クズなどがこのタイプです。巻きつく方向が決まっている種類が多く、例えばアサガオは基本的に左巻き(上から見て反時計回り)、フジやヘクソカズラは右巻き(上から見て時計回り)といった特徴があります。同じ種類でも環境によって巻き方が逆転することもあるため、実際に観察して確かめてみるのも面白いでしょう。
- 巻きひげ型: 葉の一部や茎の先端が細長く変化して「巻きひげ」となり、これが触れたものに巻きついて体を支えるタイプです。エンドウやカラスノエンドウ、ブドウなどがこのタイプです。巻きひげがバネのようにくるくると巻いている様子は見ていて飽きません。
- 吸着型: 茎の途中から短い根(気根)を出したり、茎自体が壁などに吸盤のように張り付いたりして登っていくタイプです。ヘデラやテイカカズラ、ツタなどがこのタイプです。壁面などにぴったりと張り付いて伸びていく様子を観察できます。
つる植物の観察ポイント
つる植物を観察する際には、以下のような点に注目してみると、より深くその世界を楽しむことができます。
- つるの巻き方や形: 上記でご紹介した巻きつき方や、つるの形(太さ、色、表面の様子など)を観察してみましょう。巻きつき型のつるは、どちら方向に巻いているか、実際に確かめて記録してみるのも良いでしょう。
- 何に巻きついているか、張り付いているか: フェンス、電柱、壁、他の植物など、つる植物が利用している支えを観察します。都市ならではの構造物を利用している様子は、都市の自然の一つの特徴と言えます。
- 葉や花、実の形と季節変化: 葉の形やつるの途中での変化、季節ごとの花や実のつき方を観察します。冬枯れる種類もあれば、冬でも緑を保つ種類もあります。季節の変化を追って同じ場所を観察するのもおすすめです。
- 他の生き物との関わり: つる植物に集まる昆虫(アブラムシ、チョウ、ハチなど)や、実を食べに来る鳥などを観察します。つる植物が他の生き物にとって隠れ家や食料となっている様子が見られるかもしれません。
親子で楽しむ観察アイデア
つる植物の観察は、親子で気軽に楽しめる活動です。
- 「つるまき探偵団」: 近所を散歩しながら、どんなつる植物があるか探してみましょう。「これはどっち巻きかな?」「このつるは何に登ってる?」などと声かけをしながら観察します。
- 観察ノートや写真: 見つけた植物の名前や特徴、場所、日付などを記録したり、写真を撮ったりします。つるの巻き方を矢印で書き込んだり、絵を描いてみたりするのも良いでしょう。
- つる植物マップ作り: 散歩コースで見つけたつる植物の種類や場所を簡単な地図に書き込んで、自分だけの「つる植物マップ」を作ってみましょう。
まとめ
身近な都市環境に目を向けると、様々なつる植物がそれぞれの戦略でたくましく生きている姿を発見することができます。つるのユニークな仕組みや多様な形、そして季節ごとの変化を観察することで、都市の自然の奥深さを感じていただけることでしょう。
ぜひ、次のお散歩の際に、足元や壁際、フェンスに絡みつく緑に注目してみてください。そして、あなたの発見を「まちの自然発見ひろば」で他の皆さんと共有していただけたら嬉しく思います。新たな発見が、都市の自然観察の楽しみを一層広げてくれるはずです。